

熊本の冬、皆様いかがお過ごしでしょうか。
雪こそ頻繁には積もらないものの、熊本特有の底冷えする寒さは身体に堪えますね。そして、寒さと同時に私たちを悩ませるのが「乾燥」です。
エアコンやヒーターを使えば使うほど室内の湿度は下がり、お肌はカサカサ、喉はイガイガ…。かと思えば、朝起きると窓にはびっしりと結露が発生していてカーテンが濡れてしまう。そんな「湿度のコントロール」に悩まされる季節でもあります。

実は、この季節こそ弊社が標準仕様として採用している「漆喰(しっくい)塗り壁」の真価が最も発揮される時期なのです。
今回は、なんとなく「体に良さそう」というイメージのある漆喰について、徹底的に解説します。なぜ私たちヨカイエが、これほどまでに漆喰をおすすめするのか、その科学的な理由を知れば、きっと家づくりの基準が変わるはずです!
目次
そもそも漆喰(しっくい)とは何か?その正体と歴史
「漆喰」という言葉はよく聞きますが、もしお子様に「漆喰ってなに?」と聞かれたら、正確に答えられる大人は意外と少ないものです。
漆喰の主原料、それは「石灰岩(せっかいがん)」です。

残波岬 琉球石灰岩
日本は資源の少ない国と言われますが、石灰岩に関しては国内で自給率100パーセントを誇る、非常に豊富な資源です。太古の昔、サンゴ礁などが堆積してできた地形が隆起して生まれた、まさに地球からの贈り物です。
古代ローマから使われてきた、歴史ある建築材料
漆喰の歴史は非常に古く、世界では約5000年前のエジプトのピラミッドの内部や、古代ローマの建築物にも使われています。日本では飛鳥時代にお寺の建築技術と共に伝わり、戦国時代にはお城の壁に、そして江戸時代には商家や土蔵(蔵)の壁として普及しました。

長く人類に使われ続けてきた「漆喰」。当時は「使いやすかったから」「白くてきれいだから」という理由で使われていたと思うのですが、ビニールクロスをはじめとした新しい壁材が誕生している現代でもなお、使い続けられているのは、なぜでしょうか。それは・・・

現代の新建材を凌駕する「圧倒的な機能性」を持ってるから
・・・に、ほかなりません。また、壁に定着させるために接着剤などの化学物質を使用する必要がない、というのも魅力の1つです。当社が内壁仕上材に漆喰を選んだ理由も、これら機能性に惚れ込んだからです。
化学で見る漆喰のメカニズム|石に戻る不思議なサイクル
ここからは少し化学的なお話をしましょう。
漆喰がどのように作られ、壁として塗られた後にどう変化するのかを知ることは、その性能を理解する上で非常に重要です。
1. 焼成工程:石灰岩から生石灰へ
まず、山から採掘した石灰岩(主成分:炭酸カルシウム CaCO3 )を、窯に入れ約1000度〜1200度という高温で焼きます。すると、二酸化炭素( CO2 )が放出され、生石灰(せいせっかい/酸化カルシウム CaO ) に変化します。

この生石灰、身近なところでは海苔やお菓子の袋に入っている「乾燥剤」(シリカゲル)として使われています。
また、紐を引くと温まる駅弁の加熱材としても利用されていますね。生石灰は水と触れると激しく発熱する性質があるため、それを利用しているのです。
2. 消化工程:生石灰から消石灰へ
この生石灰に水を加えると、ものすごい熱と水蒸気を発しながら化学反応を起こし、消石灰(しょうせっかい/水酸化カルシウム Ca(OH)2) に変わります。
この消石灰こそが、漆喰のメインの粉です。

いまは見られませんが・・・。昭和の運動会のライン引きで使われていました。
昭和世代の方なら、運動会のライン引きに使われていた白い粉を覚えているかもしれません。あれが消石灰です。
現在は目に入ると角膜を傷つけ失明する恐れがあるアルカリ性の高さから、より安全な炭酸カルシウム製のものに切り替わっていますが、それほど強力な作用を持っているということです。
また、酸性になった土壌を中和するための農業用肥料としても、この消石灰は広く使われています。

3. 硬化工程:呼吸しながら石に戻る
この白い粉末である「消石灰」に、海藻を炊いて煮出した「糊(のり)」と、ひび割れ防止のための繊維「スサ(麻など)」を加えて水で練ったものが、壁材としての「漆喰」です。
そしてここからが漆喰の最も神秘的な特徴です。
壁に塗られた漆喰は、空気中の二酸化炭素( CO2 )をゆっくりと吸収しながら、長い年月をかけて硬化していきます。
水酸化カルシウム Ca(OH)2 + 二酸化炭素 CO2 → 炭酸カルシウム CaCO3 + 水 H2O
お気づきでしょうか? 化学式を見ると、最初の「石灰岩(炭酸カルシウム)」と同じ成分に戻っているのです。
これを気硬性(きこうせい)と呼びます。漆喰の壁は、単に乾いて固まっているのではなく、100年以上の時間をかけてゆっくりと呼吸しながら、元の硬い岩石へと戻っていくのです。
今の住宅で一般的に使われるビニールクロスや化学接着剤は、施工した瞬間が一番綺麗で、あとは劣化していくだけです。しかし、漆喰は時間を経るごとに硬く、丈夫になっていく。「経年劣化」ではなく「経年美化」を楽しめる素材と言われる所以はここにあります。
建築的見地から見る「つなぎ」の重要性
先ほど少し触れましたが、漆喰には消石灰以外に「糊」と「スサ」が入っています。これも建築的に非常に重要な役割を担っています。
1. 海藻糊(ふのり/銀杏草など)
昔ながらの本漆喰には、海藻を煮て抽出した糊が使われます。これは単なる接着剤ではありません。保水性を高め、左官職人がコテで塗る際の「伸び」を良くし、乾燥スピードを調整する役割があります。

最近では化学樹脂(ボンド)を混ぜた製品も多く出回っていますが、それでは漆喰本来の呼吸機能を阻害してしまう可能性があります。弊社が選定しているのは、自然由来の成分にこだわった仕様です。
2. スサ(麻などの繊維)
壁に塗った漆喰が乾燥収縮する際に、ひび割れ(クラック)が入るのを防ぐための補強材です。コンクリートの中に鉄筋を入れるのと同じ理屈です。植物性の繊維が絡み合うことで、壁としての強度を物理的に高めているのです。
現代住宅に必須の機能「調湿性能」の秘密
さて、冒頭でお話しした「乾燥」と「結露」の話に戻りましょう。
漆喰が「呼吸する壁」と呼ばれる理由は、そのミクロな構造にあります。
硬化した漆喰の表面を電子顕微鏡で見ると、スポンジのように無数の微細な孔(あな)が空いているのがわかります。これを多孔質(たこうしつ)構造と言います。

湿気を吸って、吐くメカニズム
湿度が高い時(梅雨や夏、冬の結露時)
室内の湿気が増えると、漆喰の微細な孔が水分を吸着し、取り込みます。これにより、ジメジメした不快感を軽減し、窓周りの結露発生を強力に抑制します。
湿度が低い時(冬の乾燥時)
逆に室内が乾燥してくると、孔の中に蓄えていた水分を空気中に放出します。
このサイクルを電源不要で、半永久的に繰り返してくれるのです。
一般的なビニールクロスは、言ってみれば「お部屋をラップで包んでいる」ような状態です。湿気の逃げ場がなく、表面で結露し、カビの原因になります。

対して漆喰の壁は、お部屋が「ゴアテックス」や「コットンのシャツ」を着ているような状態です。湿気を通し、コントロールしてくれるため、熊本の蒸し暑い夏も、乾燥する冬も、家の中の空気環境を快適に保ってくれるのです。
強アルカリ性がもたらす「最強の衛生環境」
昨今、ウイルス対策やアレルギー対策への関心が高まっていますが、ここでも漆喰の化学的性質が大きな力を発揮します。
漆喰の主成分である消石灰(水酸化カルシウム)は、pH12以上という「強アルカリ性」を持っています。
理科の実験を思い出してください。pH7が中性ですが、pH12というのは非常に強いアルカリ環境です。
1. 抗ウイルス・抗菌作用
カビの胞子、細菌、そして多くのウイルスは、この強アルカリ性の環境下では生存・増殖することができません。
漆喰の壁にウイルスが付着すると、その強アルカリ作用によってウイルスのタンパク質や核酸が変性・分解され、感染力を失います(不活化)。
ニュースなどで、鳥インフルエンザや豚熱(豚コレラ)が発生した際、白い防護服を着た人たちが、養鶏場やその周辺の道路に「白い粉」を撒いている映像を見たことがありませんか?

あの白い粉こそが、漆喰の原料である「消石灰」です。
現代の防疫の最前線でも使われている消毒剤と同じ成分で、家中の壁が覆われていると考えてみてください。これほど安心な環境はありません。
2. 防カビ効果
日本の住宅、特に押入れや家具の裏などはカビの温床になりがちです。しかし、漆喰の壁は自らが強アルカリ性であり、かつ調湿効果で表面の水分をコントロールするため、カビが生える条件(水分・栄養・温度)を根本から断ち切ります。
「クロスのカビに毎年悩んでいる」という方には、リフォームでも漆喰をおすすめするほどです。
3. 消臭効果(化学吸着)
漆喰はニオイ対策にも絶大な効果があります。
トイレのアンモニア臭や、生ゴミのニオイ、ペットのニオイなどの多くは「酸性」の性質を持っています。アルカリ性の漆喰壁は、これらの酸性のニオイ成分を中和・吸着し、無臭の成分に変えてしまいます。
芳香剤でニオイを上書きして誤魔化すのではなく、ニオイの元を化学的に分解して消してしまうのです。
4. シックハウス対策(ホルムアルデヒドの分解)
新築住宅で懸念されるシックハウス症候群。その原因物質の一つであるホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物(VOC)も、漆喰は吸着し、分解する能力を持っています。
赤ちゃんや小さなお子様、ペットのいるご家庭にとって、空気の質は目に見えないけれど最も大切な要素です。
メンテナンスと耐久性についての誤解
「漆喰はボロボロ落ちてきそう」
「汚れたら掃除ができなそう」
そんなイメージをお持ちではないでしょうか? 実はこれも大きな誤解です。
静電気が起きないから汚れない
ビニールクロスはプラスチックの一種なので、摩擦によって静電気を帯びます。テレビの裏の配線にホコリが吸い寄せられて黒くなるのと同じ現象が、壁全体で起きています。これが壁紙が薄汚れていく最大の原因です。
一方、漆喰は無機質の天然素材であるため、静電気をほとんど発生させません。
つまり、空気中のホコリや油汚れを吸い寄せないのです。そのため、10年、20年経っても白さが持続します。これを「非帯電性」と言います。
汚れた時のメンテナンス
もし、コーヒーを跳ね飛ばしてしまったり、お子様が落書きをしてしまったりした場合はどうすればいいでしょうか?
実は非常に簡単です。
ちょっとした手垢などの汚れ:消しゴムでこすれば落ちます。
染み込んだ汚れ:サンドペーパー(紙やすり)で表面を薄く削れば、また真っ白な面が出てきます。
深い傷や欠け:ホームセンターで売っている補修用漆喰や、チョークの粉を水で溶いて埋め込めば、どこを直したかわからないほど馴染みます。
ビニールクロスの場合、汚れたり破れたりしたら「全面張り替え」しかありませんが、漆喰は部分的な補修が誰でも簡単にできるため、長い目で見れば非常にランニングコスト(維持費)が安い素材なのです。
光の質が変わる? 意匠性の魅力

最後に、建築的な美しさについて、お伝えいたします!
漆喰の壁に光が当たると、ビニールクロスのようなテカリのある反射ではなく、「拡散反射(乱反射)」という現象が起きます。
表面の微細な凹凸によって光が柔らかく四方に広がるため、照明の光が優しくなり、空間全体がふんわりと明るく感じられます。

また、左官職人の手仕事によるコテ波の模様(パターン)は、世界に一つだけの表情を生み出します。朝の光、夕方の光、夜の照明によって、壁の陰影が刻々と表情を変える様は、既製品の壁紙では決して味わえない贅沢な空間演出です。
まとめ:家族の健康を守る「白い壁」
漆喰とは、単なる「壁材」ではありません。
湿気をコントロールする「除湿・加湿器」
ウイルスやカビを撃退する「空気清浄機」
ニオイを分解する「脱臭機」
二酸化炭素を吸収して固まる「環境貢献素材」
これら全ての機能を、電気代ゼロで、24時間365日、何十年にもわたって提供し続けてくれる、優れたパートナーです。
熊本の高温多湿な夏、そして乾燥して底冷えする冬。
この気候風土の中で快適に、健康に暮らすために、先人たちが知恵を絞って受け継いできた「漆喰」という選択は、現代の家づくりにおいてこそ、最も理にかなった選択肢であると私たちは確信しています。
家づくり勉強会へのご案内
「漆喰の壁、実際に触ってみたい」
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そう思われた方は、ぜひ弊社の「家づくり勉強会」にお越しください。
文章だけでは伝えきれない漆喰の質感や、空気感の違いを、実際のモデルハウスで体感していただけます。
また、ここでは書ききれなかった「漆喰と珪藻土(けいそうど)の違い」や、「漆喰に合う無垢材の選び方」など、建築のプロが包み隠さずお話しします。
私たちは、お客様が正しい知識を持って選択されることが何より大切だと考えています。そのため、強引な売り込みや訪問営業は一切行っておりません。「まずは話だけ聞いてみたい」という気軽な気持ちで、安心してお越しください。
温かいコーヒーをご用意して、皆様のご来場をお待ちしております




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