
こんにちは、ヨカイエの若松です。
建築のプロとして、数多くの家づくりと、その後の「家の行く末」を見守ってきた、熊本の工務店です。
「親が亡くなった後、実家をどうすればいいのか?」
「相続税で損をしたくないけれど、何を準備すればいい?」
このようなご相談をいただくことが増えました。家は単なる「不動産」ではなく、家族の思い出が詰まった場所でもあります。しかし、引き継ぎ方を一歩間違えると、多額の税金や親族間のトラブルに発展してしまうこともあります…!
今回は、ご実家を引き継ぐ際の3つのパターン(売買・相続・生前贈与)の比較から、知っておくべき節税対策、維持にかかるコストまで、プロの視点で徹底解説します。

目次
実家を引き継ぐ「3つの方法」:メリット・デメリット比較
親から子へ家を渡すには、大きく分けて「相続」「生前贈与」「売買」の3つのルートがあります。それぞれの手法によって、発生する税金の負担額や法的な手続きの煩雑さは大きく異なり、選択次第では将来の資産価値や家族関係にまで多大な影響を及ぼすことがあります。
もちろん、ご家族の資産状況やご自身のライフステージ、環境などにより最適解は変わると思いますが、今回は一般的なメリット・デメリットをご紹介させていただきたいと思います。
① 相続(亡くなった後に引き継ぐ)

親御様が亡くなった後に、法的手続きで財産を受け継ぐ、ごく一般的な引き継ぎ方法です。
- メリット:
税制上の恩恵がもっとも大きいのが特徴です。一定の資産額までは税金がかからない「基礎控除」が設けられているほか、この後で説明をする「小規模宅地等の特例」を適用することで、土地の評価額を劇的に下げることが可能です。これにより、多額の現金を残さずとも住まいを守りきれる可能性が高まります。
- デメリット:
親御様の生前に具体的な取り決めをしていない場合、相続人が複数いるとという遺産分割協議が難航するリスクがあります。相続人間での話し合いがまとまらないまま放置されると、建物の老朽化が急速に進み、周辺環境にも悪影響を及ぼす「空き家問題」に直結しかねません。あとで揉めないためにも、遺言書をあらかじめ作成しておくことをお勧めしております。
② 生前贈与(生きている間に譲る)

親御様がお元気なうちに、特定の子供へ所有権を移転させる方法です。
- メリット
「この家に住み続けてほしい」という親御様の意思を直接反映できるため、将来の相続争いを未然に防げる安心感があります。また、所有権が早期に移ることで、子が主体となってリノベーションや耐震補強の計画を立てやすくなり、住まいの性能向上を早い段階で実現できるのも大きな魅力です。
- デメリット
相続に比べて贈与税は税率が高く、本来であれば負担が重くなりがちです。しかし、後述する「相続時精算課税制度」を活用することで、2,500万円までの贈与を非課税で進めることも可能になります。
③ 売買(親から子が買い取る)

他人との取引と同様に、親御様から子が正当な市場価格で実家を買い取る方法です。
- メリット
売買契約を交わすことで所有権の所在がもっとも明確になり、他の相続人から後で異議を唱えられるリスクを低減できます。また、子が支払った代金は親御様の老後資金として現金を渡すことができるため、家族全体での資金計画が立てやすくなるという実利的な側面があります。
- デメリット
子の側に、一括で購入するための自己資金、あるいは住宅ローンの借り入れ能力が求められます。さらに、身内同士だからといって相場より極端に安値で取引すると、税務署から「実質的な贈与」とみなされ、差額分に高い贈与税が課せられる可能性があるため、プロによる客観的な査定と適正価格での取引が必須となります。
2. 相続税を劇的に安くする「小規模宅地等の特例」とは?
相続において、もっとも注目すべきであり、かつ最強の節税武器となるのがこの特例です。これを活用できるかどうかで、最終的な納税額が数百万円、時には数千万円単位で変わることもあるため、制度の中身を深く理解しておくことが重要です。
どのようなメリットがあるのか?
一定の条件を満たせば、自宅の敷地(330㎡まで)の評価額を「80%減」にすることができます。
例えば、都市部の利便性の高い場所にある5,000万円の土地を相続する場合、この特例が適用されれば、相続税計算上の評価額はわずか1,000万円にまで圧縮されます。
相続税には「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」という基礎控除がありますが、この特例によって資産の総額が基礎控除額を下回れば、本来かかるはずだった多額の相続税が「ゼロ」になるケースも少なくありません。
なぜこのような特例があるのか?
国がこの特例を設けている最大の理由は、「残された家族が住む場所を失い、生活の基盤が崩壊するのを防ぐため」です。
もし、高騰した土地の価格に対してそのまま相続税が課されてしまったとしたら、どうでしょうか…?そうすれば、納税のための資金を作るために住み慣れた家を売却せざるを得ない家族が出てきてしまいます。
住まいは国民生活の根本であり、そこに住み続ける権利を守ることは、社会の安定に直結します。そのため、「事業用」や「居住用」など、生活に密接に関わる土地については、税負担を極力抑えようという極めて社会保障的な配慮がなされているのです。
3. 生前贈与の切り札「相続時精算課税制度」の活用
生前贈与を検討する際、ぜひ知っておきたいのが「相続時精算課税制度」です。
これは、原則60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子や孫に対して財産を贈与する場合に選択できる制度です。
最大2,500万円まで贈与税が「非課税」に
この制度の最大の特徴は、累計2,500万円までの贈与であれば、贈与時には税金がかからないという点です。2,500万円を超えた分については一律20%の贈与税がかかりますが、一般的な贈与(暦年贈与)に比べて大幅に負担を先送りできます。
「精算」の仕組み:税金をあとでまとめて計算する
「非課税ならこれに決まりだ!」と思われがちですが、注意点もあります。
この制度はその名の通り「相続時に精算」するものです。つまり、贈与した財産の価値を、将来の相続税の計算に持ち戻して合算する仕組みです。 「今、税金を払わなくていい代わりに、将来の相続税としてまとめて払ってくださいね」という、税金の支払いを後回しにする制度だと理解しましょう。
2024年の改正でさらに有利に!年110万円の基礎控除が登場
実は2024年1月から、この制度がさらにパワーアップしました。相続時精算課税制度を選択していても、毎年110万円までの贈与については、相続税の計算に持ち戻さなくて良い(非課税のまま)という基礎控除が新設されたのです。
これにより、大きな家(資産)をドカンと贈与しつつ、毎年コツコツと非課税で現金を贈与するといった併用が可能になり、これまでのデメリットが大きく解消されました。
4. 相続時にかかる税金と、維持にかかる税金
家を引き継ぐ手続きの瞬間だけでなく、その後の暮らしを維持していく過程でも、様々な税金が家計に影響を及ぼします。これらを事前に把握しておくことが、無理のないライフプランを立てる鍵となります。
相続・取得時にかかる税金
- 登録免許税:
不動産の名義を変更する「登記」の際に国に納める税金です。相続の場合は固定資産税評価額の0.4%に設定されていますが、これは贈与や売買時の2%と比較すると非常に優遇されています。国としても、円滑な資産の継承を後押ししていることが伺えます。- 相続税
故人の遺産総額が「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」という基礎控除額を超えた場合に課税されます。例えば、法定相続人が子供2人の場合、4,200万円までは非課税ですが、これを超える分には10%から最高55%までの累進税率が適用されます。土地や建物だけでなく、預貯金や株式なども含めた総資産で判断される点に注意が必要です。
維持していくためにかかる税金
- 固定資産税・都市計画税: 毎年1月1日時点での所有者に、市町村から課税されます。
- 固定資産税: 評価額 × 1.4%(標準税率)
- 都市計画税: 都市計画区域内の建物に課され、評価額 × 最高0.3%となります。
- 住宅用地の特例による軽減: 現在、住まいが建っている土地は「住宅用地の特例」により、固定資産税が最大1/6、都市計画税が最大1/3に軽減されています。しかし、管理が行き届かず「特定空き家」に指定されたり、安易に取り壊して更地にしてしまうと、翌年から税額が数倍に跳ね上がり、経済的な圧迫要因となるリスクがあります。
5. 放置すると怖い「相続登記」と「共有状態」のリスク
「忙しいから」「話し合いが面倒だから」と、不動産の名義変更を先送りにすることには、目に見えない巨大なリスクが潜んでいます。
- 共有状態の恐ろしさ: 遺産分割が決まらないまま放置すると、法律上、家は「相続人全員が持分を持つ共有」となります。例えば、長男が「雨漏りしたから屋根を直したい」と思っても、大規模な修繕やリフォームには他の兄弟の同意が必要となり、一人でも反対すれば身動きが取れなくなります。ましてや売却や解体となれば、全員の合意が必須であり、一人の反対で資産価値が凍結される事態を招きます。
- 負の連鎖と紛争の火種: そのまま数十年が経過し、相続人がさらに亡くなると、権利は孫や曾孫の代まで枝分かれしていきます。一度も会ったことのない親戚が権利者になり、数百人の実印が必要になるといった、実質的な処分不能状態(所有者不明土地問題)に陥ります。
- 2024年からの義務化: 所有者不明土地の増加を背景に、2024年4月から相続登記が法的に義務化されました。相続を知った日から3年以内に正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料(罰則)が科される可能性があるため、早急な対応が求められています。
6. 遺言書の役割と「みなし贈与」の罠
引き継ぎを円滑にするための「準備」と、知識不足による「失敗」を防ぐポイントです。
遺言書は「家族への最後のラブレター」
「うちは仲が良いから争いなんて起きない」と考える方こそ、遺言書の作成を検討すべきです。
相続は感情が複雑に絡み合う問題であり、親の明確な意思が示されていないことで、些細な主張の食い違いが骨肉の争いへと発展してしまいます。「この家は、自分たちの面倒を見てくれた長男に継がせる」といった明確な一筆があれば、それが法的な根拠となり、残された家族の絆を守る楯となります。
「安く譲ればいい」はNG?みなし贈与の注意点
親から子へ家を「売買」する際、温情から「相場の半額程度で売ってあげよう」と考えることがあります。
しかし、税務署はこれを見逃しません。 時価(市場価格)と実際に支払った額の差が著しく大きい場合、その差額分を「実質的に親からプレゼント(贈与)された」と判断するのが「みなし贈与」の制度です。
不自然な低価格での譲渡を避けることが、予期せぬ税金トラブルを防ぐ唯一の道です。
7. あなたはどの方法が向いている?
プロの視点から、タイプ別に最適な引き継ぎ方をまとめました。
- 「相続」がもっとも向いている人:
- 現在、親御様と同居しており、将来もその家に住み続ける意思がある。
- 「小規模宅地等の特例」をフル活用し、もっとも税負担を抑えたい。
- 「生前贈与(相続時精算課税制度)」がもっとも向いている人:
- 親が元気なうちに名義を移し、2,500万円の非課税枠を使って早めにリノベーションや建て替えを行いたい。
- 2024年の改正による「年110万円の控除」も活用しつつ、賢く資産を移したい。
- 「売買」がもっとも向いている人:
- 親にまとまった現金を渡し、施設入居費や医療費などの豊かな老後資金に充ててほしい。
- 複数の兄弟がいる中で、自分が家を買い取ることで「誰がいくら貰うか」という遺産の公平性を現金でハッキリさせたい。
最後に
家は、適切にメンテナンスし、愛着を持って住み継ぐことで価値が守られます。「相続したけれど、古くて住めるか不安」といった建築面のご相談は、ぜひ私たち工務店にお任せください。
税金のことは税理士、登記のことは司法書士といった専門家とも連携し、お客様の「実家のこれから」をトータルでサポートいたします。


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