目次
住宅省エネ補助金の変遷
令和8年(2026年)の家づくり補助金が発表されました。
ZEH水準住宅は、ほんの数年前は80~100万円だったんですが、令和8年の「みらいエコ住宅2026事業」では、ついに35万円になりました。ずっと省エネ補助金申請を担当してきた身としては、「安くなったなあ…」という思いが強いです。
地域区分でも補助金額が変わるように
かわりに、GX指向型住宅や長期優良住宅の補助金が優遇されるようになりましたね。あと、地域区分でも補助額が変わるようになりました。1~4地域(いわゆる「寒冷地」)では補助金の額が増額されました。これは今までになかった制度です。
子育てグリーンから出てきた「古家の除却」による増額は、今年もやるようです。既存住宅リフォームでの断熱改修に対する補助金も出てきたことから、既存住宅の高断熱化という行政の狙いも透けてみてきそうです。
住宅の省エネ水準がようやく義務化(2025年4月)
2025年4月からの省エネ基準適合義務化以降、日本の新築住宅の断熱レベルは一気に上がりました。省エネ適合性判定によって「断熱等性能等級4以上」でなければ、住宅を建てることができなったのです。
「現行省エネ基準」適合が義務化されたことで、省エネ性能の底上げが進んでいますが、これはZEH水準の義務化ではありません。
ZEH水準は以下の2つを同時に満たす必要があります。現行省エネ基準のさらに上を行く、厳しい基準になります。
- 「断熱等性能等級5」以上
- 「一次エネルギー性能等級6」
本記事では、熊本で新築住宅を手がける工務店として、単に制度の解説だけではなく、
- なぜその性能が求められているのか
- 建築費は本当に高くなるのか
- 長く住んだときに元は取れるのか
といった「家づくりの本質」に踏み込んで解説します。

断熱等級とは何か?
補助金の説明で必ず出てくるのが「断熱等性能等級」という言葉です。簡単に言うと、
家がどれだけ外気温の影響を受けにくいか
を数値化したものです。等級は数字が大きいほど性能が高く、
- 等級4:省エネ基準適合が義務化の最低ライン
- 等級5:ZEH水準
- 等級6:GX志向型住宅の前提
という位置づけになります。これから家を作る場合は断熱等性能等級4以上でなければ、家を建てることはできません。
■ 断熱性能が低い家で起きること
- 夏は冷房が効きにくい。屋根に近い2階は、暑くてとてもあがれない。
- 冬は足元が冷える。特にお風呂場は心臓に負担がかかる・・・。
- 光熱費が下がらない。エアコンではとても間に合わないので、冬場はファンヒーターが必需品。
- 窓辺に大量の水滴がたまり、結露・カビの原因になる。

家族の健康をむしばむ、断熱性の低い住宅
単に光熱費の問題では済みません。
特に子どもや高齢者などがいる場合、冬場はヒートショック、夏場は熱中症の原因になりかねません。また、結露が多く発生することになり、カビの胞子を吸い込むことでの健康被害が発生する可能性もあります。
省エネ性能の悪い家では、健康に悪影響がある可能性がある、ということです。

GX志向型住宅とは「エネルギーを管理できる家」
GX志向型住宅というのは、ZEH基準住宅のさらに上の断熱水準をクリアした住宅のこと。
令和8年の「みらいエコ住宅2026」では、110~125万円と、同制度でいちばん高額の補助金を受けることができます。これを目指すには、以下のような条件をクリアする必要があります。

GX志向型住宅の条件
- 断熱等性能等級6以上(HEAT20 G2グレード相当)
- 一次エネルギー消費量を35%以上削減(再生可能エネルギーを除く)
- 一次エネルギー消費量を100%以上削減(再生可能エネルギーを含む)
- HEMSの導入
ここで、HEMS(ヘムス)という耳慣れない言葉がでてきましたね。
■ HEMSとは何か?
HEMS(ホーム エネルギー マネジメント システム)とは、
家の中で使っている電気やエネルギーを
「見える化」し、無駄を減らす仕組み
です。
エアコン・給湯器・太陽光発電などを連携させ、「いつ・どこで・どれくらい使っているか」を把握できます。GX住宅は、性能が高いだけでなく、エネルギーをコントロールできる住宅です。HEMSの働きによって、省エネ効率をなお高めることが可能になります。
GX住宅は建築費が高くなる?正直な話をします
結論から言えば、GX志向型住宅は初期コストが上がるケースが多いです。
理由は明確で、
- 断熱性能の大幅強化
- 高効率(省エネ)設備の採用
- 太陽光発電・HEMSの導入
が必要になるからです。

では、GX志向型住宅はトータルでは、損なのか?
ここで重要なのが「建てるとき」ではなく「住み続ける時間」で考えることです。
GX住宅では、
- 冷暖房費の削減
- 光熱費の安定化
- 将来の省エネ基準強化への先行対応
といった効果が、何十年にもわたって積み重なります。特に、インフレが続き地政学上も不安定な状況が続いている日本においては、光熱費は上がる一方です。自家発電が可能ということは、災害時でも(自家発電設備や電気配線が破壊されなければ)電力が遮断されることがないというメリットもあります。
令和8年補助金では熊本の場合 110万円 の支援があることになりますが、ZEH水準住宅からGX志向型住宅にするための建築費の増加は、もちろんこんなものではありません。建物の規模によりますが、何百万円という規模の建築費増となります。
その建築コスト増と、生涯の省エネメリットを天秤にかけて判断する。
――それが、GX住宅の正しい考え方です。

長期優良住宅は「耐震と省エネの両立」が条件
みらいエコ住宅2026において、GX志向型住宅ほどでなありませんが、長期優良住宅もかなり高い75~95万円の補助金を受けることができます(熊本県の場合)。
では、長期優良住宅とは何でしょうか。単に“長持ちしそう”な家ではありません。
劣化対策(構造躯体):数世代にわたり構造躯体を使用できるよう、劣化対策等級3相当以上などの基準を満たす(床下・小屋裏の点検口設置、床下空間の確保など)。
耐震性:大地震後も継続利用できるよう、損傷レベルの低減や改修の容易化を図る措置(耐震等級2以上など)。
維持管理・更新の容易性:水回り設備など、点検・補修・更新が容易に行えるための措置。
省エネルギー性:必要な断熱性能などの省エネ性能を確保する。
居住環境:良好な景観形成や地域住民との調和に配慮し、所管行政庁が審査(自治体ごとに基準が異なる)。
住戸面積:75㎡以上(2人世帯の一般型誘導居住面積水準)、かつ少なくとも1つの階の床面積が40㎡以上(戸建て)。
可変性:ライフスタイルの変化に応じて間取り変更が可能な措置(戸建ては適用除外の場合あり)。
バリアフリー性:将来の改修に対応できるよう共用廊下などに配慮(戸建ては適用除外の場合あり)。
長期的な維持保全計画:建築後も定期的な点検・補修・記録作成・保存を行う計画を策定。
このなかでも特筆すべきは、省エネルギー性と耐震性となります。省エネルギー性としては、「断熱性能等級5、かつ一次エネルギー消費量等級6」つまり、ZEH水準を満たしている必要があります。
そして、耐震性としては、耐震等級2もしくは3(最高等級)である必要があります。
■ 耐震等級の“落とし穴”
なお、同じ耐震等級3でも、
- 許容応力度計算による耐震設計
- 壁量計算による簡易的な設計
では、実際の安全性は大きく異なります。
許容応力度計算は、地震時に建物にかかる力を詳細に計算する方法です。

許容応力度計算とは
建物にかかる荷重(地震・風・自重など)で柱や梁などの各部材に発生する力(応力度)を算出し、それが材料ごとに定められた安全な限界値(許容応力度)以下であることを確認する、最も詳細で信頼性の高い構造計算方法です。
具体的には「発生応力度」が「許容応力度」を下回ることを、全ての部材(柱・梁・基礎など)で検証し、安全性を数値で証明します。2025年以降は義務化対象が広がり、より安全な家づくりに不可欠な手法です。
一方、壁量計算は最低限の基準を満たすための簡易手法です。
同じ耐震等級3でも、中身は天と地ほどの差があることを知っておく必要があります。ウチは長期優良住宅だから、最低でも耐震等級2だから安心…とは思わない方が良いと思います。

それが許容応力度計算での構造計算をしているかどうかは、かならず確認すべき事項です。
補助金は“より良い家”を作るための先行投資と思うべし
令和8年の住宅補助金は、
・高性能住宅への入口
・将来基準への先行投資
として活用すべき制度です。熊本で新築住宅を建てるなら、建築費だけを見るのか、住み心地と光熱費を含めて考えるのか。
この視点の違いが、何十年後の満足度を大きく左右します。わたしたちヨカイエは、単に「補助金が取れる家」ではなく、「補助金が取れることはもちろん、快適かつ健康的な住宅」をご提案することが重要だと考えています。




コメント